大学研究室の研究をマンガで紹介する企画”隣のとなりのサイエンス”、おかげさまで好評を頂いてます。ありがとうございます。
”隣のとなりのサイエンス”というタイトルは、パソコンや携帯のような私達の日常にあふれる科学の、更にその元となる科学、私達の日常に間接的に関わってくる科学の面白さを、多くの人に知ってほしいと思って名づけました。
”隣のとなりのサイエンス”はこれから連載していく予定です。うちの研究をネタにしてよ!というご依頼も大歓迎です。ぜひぜひご連絡ください。
そういう訳で、ここはひとつ研究をマンガで紹介するメリットを大々的に宣伝して一儲けしたい…のですが、すあなコラムの第一回、今回はむしろ、科学をマンガで紹介する際の弱点についてお話ししようと思います。
実は、マンガは何かを解説するのがとても苦手です。
いやいや…これじゃ宣伝にならないのですけど、少々お待ちください。順をおって説明しましょう。
マンガに含まれる情報を、ざっくりと読者の頭脳へ送られる知識と、心へ送られる感動の2つに分けるとします。
絵の伝える雰囲気、「なんだか楽しそう」というような情報は、マンガから読者の心へ送られる情報です。第一話を読んで、「この研究なんだか面白そう」と思って頂けたなら、マンガに盛り込んだ「これ面白いよね!」という情報が、あなたの心へうまく送信できたということです。しめしめ。
一方、マンガから読者の頭脳へと送られる情報もあります。これは主に文字による情報で、”隣のとなりのサイエンス”第一話に関して言えば、水の窓顕微鏡の仕組みや、軟X線の波長に関する解説部分にあたります。”隣のとなりのサイエンス”は研究を紹介するマンガですから、この部分はとても重要です。
さて、ではこの読者の意識へと送信される情報ですが、どのくらいの量が見込めるでしょうか。
よくプレゼン1分あたりスライド1枚と言われますが、このプレゼンを更にマンガにする場合を考えてみます。
マンガは、登場人物の会話によって話が進められます。絵と文字のバランス等を考慮すると、かなり台詞の多いマンガでも1コマあたり二言か三言が限界です。そして1コマ1コマを並べていき、5〜6コマくらいで1ページとなります。
こうして、例えば10分程のプレゼンをマンガにすると、だいたい30ページになります。
意外と少ないことにびっくりしたのではないでしょうか。もしマンガを読んだ感想が「なんだか中身が無いなあ」だったとしたら、それはその通り、マンガはそういうメディアなのです。
もちろんページ数を増やせば、情報量を増やすことは出来ます。しかし話が長くなれば、途中で脱落する読者が増えてしまう。せっかく描いたマンガも読んでもらえなければ意味が無いので、”隣のとなりのサイエンス”制作にあたっては、かなりたくさんの情報を切り捨てました。こうして、”隣のとなりのサイエンス”の肝心な研究の紹介という部分は、とても薄くなってしまいます。
さて、ここで冒頭の疑問に戻ります。はたして科学をマンガで紹介することに意味は無いのでしょうか?
インターネットの普及と検索サイトのお陰で、誰もが何でも簡単に調べられる時代になりました。例えば水の窓軟X線生体顕微鏡も、それっぽいキーワードで検索すれば情報はたくさん降ってきます。光の波長についての小学生でもわかる丁寧な解説から、水の窓軟X線生体顕微鏡にフォーカスを当てた専門的な解説もあり、検索した人は、それぞれ自分の必要に合わせた知識を仕入れる事ができます。
しかし一方で、インターネット上にある情報は、自分で能動的に調べようと思わない限り出会うことはありません。
そこで重要になってくるのが、「何を調べようと思うか」という動機の部分だと思います。
動機とはつまり、興味です。読者が興味を持ってくれさえすれば、あとは自分で調べてくれるはず。そこで”隣のとなりのサイエンス”は、研究を解説することより、研究に興味を持ってもらうという方に大きく舵を切ることにしました。
マンガは解説は苦手ですが、読者の心へ送る情報、つまり面白さを伝える部分では、強みを発揮するメディアです。
理科に興味を持つ人が増えれば、グルーっと回って科学的成果も増えるはずです。そしていつか”となとな”を読んだ人の中からノーベル賞を貰う人が出ちゃったりしたら嬉しいですね。握手してもらおう。夢は大きく。
これからも”となとな”をよろしくお願いいたします。