研究について説明する時、特にストーリーのあるマンガでは、話の最後で研究の産業応用や社会貢献の可能性について触れることがほとんどです。ご依頼された研究者の方から提案されることもあれば、こちらから提案することもあります。
ただ実際には、私も自身も、それからご依頼頂いた研究者の方も、仕事のモチベーションの出処は、好奇心の部分が大きいです。こういった状況では、話のオチを産業応用にすることに、多少のひっかかりを感じます。
研究紹介マンガの目的は、研究に興味を持ってくれる人を増やすことです。マンガを読んでくれた方が、”その研究面白そうだな””自分でもっと調べてみよう”ついでに”自分も研究したい”と思ってくれたら理想的です。すると、マンガのオチは”この研究はおもしろい!”で終わりたいところでですが…なかなかそれだけではすまない時代です。
その研究の先にあることが社会貢献である必要は無いとは思いません。ただ、その研究が将来何の役に立つのか、先の先まで完璧に想像できるほど、人間の想像力は優れていないと思います。
例えば、飛行機の研究についてです。
一番最初は、幅広の板切れを持って丘を駆け下りるところから始まったそうです。その時その研究者が”この研究は将来かならず人類の役に立つ””人が自由に空を飛ぶようになり、移動のコストが大幅に削減されて、社会に大きく貢献する”とまで考えていたか…?
まあ、考えていたかもしれませんが、十中八九そこまではないでしょう。
ただ、今はできないことを”できるようにしたい”、そのために必要な”飛ぶ仕組みを知りたい”の一心だったのではないでしょうか。
現代では、科学はとても高度になり、もはや1人では研究しきれません。さらに、板切れを用意するだけで実験できるほど手軽でもありません。研究にはどうしてもお金がかかります。
私が呑み会で、つい最近知った面白い研究について話すと、ごくたまに”その研究に使うお金を福祉に回せば、みんなもっと幸せになるじゃないか”と言われることがあります。
とても厳しい質問です。
でも、私は”そのお金があれば、今日その人を救うことができるかもしれない。でもお金はいつか尽きる。一生養うことはできない。それより、多少先のことになっても、研究に投資すれば、いつかそういう不幸な人を完全に無くせる。”と答えるようにしています。
当すあなサイエンスの企業理念は、研究を理解してくれる人を増やすことです。理解とは、本当に研究の内容を理解してくれたらそれはそれで嬉しいのですが、”許す”というようなニュアンスも含みます。
失敗した研究でも、”この方法は行き詰まるからやらない方が良い”という大切なデータです。自分の仕事に置き換えて考えてみれば、失敗がいかに貴重な経験となるか、すぐに解ります。
もっと多くの人が研究に理解を示してくれるようになれば、もっと自由に研究できるようになるはずです。基礎が産業応用に至るには何十年もかかるかもしれませんが、どんな研究でも、すべて必ず人類の財産になるはずです。
そのために、人の好奇心を刺激したい。
すあなサイエンスが、その一助になれば、それほど幸せなことはないな、と思います。
あ、でも広報の方からお仕事をご依頼いただいた場合は、直球で”貢献”をアピールします。それはそれでとても気持ちのいい話ですし。
何かが解った時の喜びも大きいけど、誰かが喜んでくれた時の喜びも大きいですしね。
サイエンスイラストレーター・サイエンスマンガ家 かつとあつと