盛り込みたい情報量と輪郭線

マンガのような絵は、物体の周りに輪郭線があります。
輪郭線は現実には存在しない線ですが、物体と物体の境目を明確にするので、”わかりやすさ”が上がります。

一方、輪郭線のある絵は少しチープな印象になります。
絵描きの立場としては、せっかくご依頼を頂いた絵だし、手間を掛けてリアルに輪郭線のない絵を描きたいと思うことも多いのですが、ここには注意点があります。

輪郭線のない絵は、輪郭線のある絵に比べて、見る人が絵を把握するために脳を多く使います。すると、見る人は”疲れる”ので、”あまり良く見てくれない”という問題が起きます。

記事内の画像のように、白背景にリンゴがひとつづつ置いてあるような場合であれば、どれもそれほど変わらずに”りんごだ”と見てもらえます。
ところが、サイエンスイラストにはよくあるように、色々な説明が一つの絵の中に盛り込まれていて、リンゴの周囲にも様々な情報が有る場合、リアルな絵は全体として”わかりにくい”という状況に繋がります。

例えば木があって、その木に加わる力があって、その結果リンゴは落ちる…というような事を説明するイラストですと、リンゴの周囲には木や矢印など多くの情報が配置され、そのすべてを見てもらう必要があります。
このような場合は、リアルに描いたリンゴより、輪郭線を使って少しマンガに寄せた絵のほうが全体として解りやすいイラストになります。

絵は、あくまで情報伝達のためのツールです。そのためには、その場その場で最適な描写を選ぶ必要があります。製作者にとっては”ここは腕自慢の場ではない”ということを常に念頭に置いておく必要があります。

まあ、伝える情報が十分絞り込まれていて、予算もあれば、思う存分描き込むのですが…(ちなみに、一番左のリンゴは製作時間40秒、一番右のリンゴは8時間です。)

サイエンスイラストレーター・サイエンスマンガ家 かつとあつと