サイエンスイラスト・サイエンスマンガのお仕事は、インターネット無しでは成立しません。
論文など、うっかり情報が漏れたら大変なことになるお仕事は自分ひとりで対応しますが、そうでないものは、全国に散らばるうちのスタッフの力を借りて進めます。絵が上手くて科学も好きな(しかもお安く手伝ってくれる)人材は本当に貴重ですから、もはや近所に住んでいて、などという贅沢は言えません。SkypeやLINEを通して打ち合わせし、Dropboxでファイルをやり取りしています。
もちろん資料探しにおいてもインターネットは大活躍です。もしインターネットがなかったら、一年で必要になる資料代は車が買えるほどでしょう。専門書は高いですし…。
さて今日は、サイエンスイラスト・サイエンスマンガの制作に必要な資料の探し方についてです。
打ち合わせの前の予習や、打ち合わせの最中、あるいは制作に入ってからも”描いてみたら情報が足りないとわかった”場合など、とにかくインターネットで検索します。
Wikipediaに項目がある程度の専門用語なら、20〜30件はヒットするのでそれほど困りません。
でも、迂闊に信用すると痛い目にあうのがインターネットですから、検索結果のインデックスから最低10件は”新しいタブ”で開いて、一通り目を通します。その情報が、大学や研究機関のホームページに置いてあるならまず大丈夫ですが、その他の場合は注意が必要です。
また、キーワードで検索している以上、”今知りたい事”について解説しているのではなく、別の解説の一部に”知りたい単語が登場した”だけなことも多いです。それでも、欲しい情報の周辺情報として頭のなかに入れていくと、”今知りたいこと”の理解の助けになります。
こうしてタブそれぞれの情報についての”正確さ”を頭の片隅に起きながら、それぞれの解説を平均化して、大体の傾向を掴み、絵に盛り込んでいきます。
もう少し専門性が高い単語ですと、ヒット件数が一桁台になってきます。ただここまで来ると”専門家以外はその単語すら知らない”状況なので、情報の確度についての心配は減ってきます。(ただし、全くなくなるわけではありません)ところが、こうなってくると今度は解説も専門的で容赦がない場合が多いです。まずはヒットして開いたタブを流し見して、それぞれの解説文に共通しがちな分からない単語を調べて…と3〜4階層くらい、開くタブが50枚くらいまでいくと、大体なんとなくわかってきます。
また、意外と役立つのが、外国語での画像検索です。専門用語はたいていカタカナですから、英単語に置き換えて(googleの”次の検索結果を表示しています。”のおかげで、多少スペルが間違っていてもなんとかなります。)検索してみると、日本語圏では文章のみだった解説が、海外では図入りで解説していることがよくあります。こんなのをまた10件ほど新しいタブで開いてみると、なんとなく知りたいことが見えてきます。
最近は英語の他にも、中国語での画像説明が充実しています。ジャンルによってはロシア語も強いです。
ただし、こういった画像検索のときに注意したいのは、見つけた説明のスポットが自分の欲しい情報と少しずれている場合です。こういう場合、自分の必要な部分が簡略化されていて、そのまま真に受けると不正確となってしまうことがあります。こういう事態を避けるためにも、多数の資料を集めるのは効果的です。
こんな風に、検索の範囲を広げたり狭めたりしながら、徐々に深く掘っていき、途中でひろった必要な資料を次々と保存していきます。
やがて自分の知識も増えてくると、検索でヒットする資料に.pdfが増えてきて、ご依頼を頂いた先生ご本人や、共同研究されている先生方の名前が登場してくるようになります。
興味はつきませんが、絵を描かないことには仕方がないので、資料収集はひとまずこのあたりで切り上げます。あとは描きながら追加の資料を探したり、ご依頼を頂いた先生ご本人に質問のメールをお送りすることになります。
こうして集めた資料は、打ち合わせのときに頂いたスライドなどを含めて、イラスト1枚あたり画像だけで100枚ほど、pdfや保存したウェブページも10ページ以上になります。マンガならその3倍から5倍でしょうか。資料参照用のディスプレイには常に数枚が並んでいる状態で制作します。
絵について考える時、絵を描く時、仕事中はどの場面でも、必要な資料がいつでも視野の片隅に入るようにしておく必要があります。資料を見なければ正確には描けないし、一つのディスプレイで制作と資料確認を繰り返すのは、脳の負担も、手の負担も大きくなります。最近はディスプレイもかなり安くなったので、私は最大で6枚のディスプレイを同時に利用しています。
当すあなサイエンスでは、二度目以降のご依頼や、共同研究されている先生からの紹介いただいた場合は、少しですが値引きできることがあります。それは、必要な知識に共通部分があるため、勉強にかかる時間を削減できるからです。
ところが、通常打ち合わせはおよそ1時間、資料用に写真が必要な場合は+1時間程のお時間を頂いていますが、2度目以降の打ち合わせで、何故か時間が長くなることがあります。
それは、こちらの知識が増えたので、より突っ込んだ質問をできるようになったためです。そういう場合、”多分仕事とは直接関係ないのですが、興味があるので…”と前置きします。
しかしながら、先生方もお忙しいので、なかなか余談を切り出すタイミングがなかったりもします。
そういう時はちょっとさみしそうに帰ります。