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絵師カスタムを作る

このページは2話目です。
1,「快適」とはどういうことか?
2,快適に絵がかけるパソコン「絵師カスタム」を作る(このページです)
3,いつかかならず訪れる故障に備える
必要に応じて移動してください。

絵師カスタムのポイントになるパーツ

気持よく絵を描くためのパソコン「絵師カスタム」に関連したパーツはそれほど多くはありません。ただ、もう今すぐ欲しい、長文だるいという人はこちらのリンクからどうぞ。結構いい所を突いた品揃えがあります。

マウスコンピュータ クリエイター向け、エンジニア向けパソコン

さて、それじゃあ絵師カスタムでポイントとなるパーツを説明しましょう。8

端的にパソコンの性能を示すパーツとして、CPUというパーツがあります。略さずに日本語訳すると「中央演算処理装置」。色々できるとはいえ、実はパソコンは計算機なのですが、一番中心となる計算装置、というような意味です。ところが、もはやお絵かきはそれほど重たい計算ではないので、絵師カスタムではあまり重要ではありません。とりあえず4コアあればそれで大丈夫です。

一方でメモリはとても重要なパーツです。とにかく同時に起動するソフトが多くなるのがお絵かき。それでもサクサク動くには、大容量のメモリが必要です。最低でも16GB、できれば32GBあると良いでしょう。このメモリ容量は、一般的なパソコンでは余り見られないので、カスタムする必要があります。

それから、SSDも重要なパーツです。パソコンをつかっていて発生する待ち時間のほとんどは、HDDがモタモタしてるのを待っている時間です。このHDDをより高速にしたのがSSDで、HDDの10倍程度の速さがあります。10倍速いということは、待ち時間が1/10になるということ。例えばパソコンやソフトの起動を待っている時間が1/10になります。こういった待ち時間を減らすのは、実は大きな意味があります。
絵がうまくなりたいのなら、自主練が欠かせません。しかし、暇な時間にサッとペンを取るのはなかなか気が重かったりします。そこで一瞬でも「絵を描こう」と思った時、気がそがれる前に「原稿が表示されている」のは、とても重要な事です。
ただし、SSDは高価で、容量が少ないのが欠点です。そこで自分で作った絵や資料を保存するために、別にHDDが必要です。

グラフィックカードもそこそこ重要なパーツです。まず第一に、複数のディスプレイをつなぐのに必要なことが多いでしょう。ディスプレイによって接続可能な端子は色々あるので、すでにディスプレイを持っている場合は、そのディスプレイの端子をよく調べてグラフィックカードを選びます。それから第二に、もともとグラフィックカードの役目は「画面表示に関する計算を速くする」ことです。お絵かきの時、大きなブラシがスイスイ動くか?原稿の回転や手のひらツールがサクサク使えるか?といった部分に関連しています。とはいえ最近のグラフィックカードは3Dゲームが快適に遊べることを目指してとても性能が良いので、グラフィックカードには2万円も当てれば十分です。

もし予算が足りなくて、どうしてもカスタムするパーツを減らしたいなら、優先順位は
メモリ>SSD>グラフィックカード
が良いでしょう。

絵師カスタムの元になるパソコンはどこで調達すればよいか?9

パソコンのカスタムをするには、BTOメーカーで注文するか、パソコンパーツショップで全てのパーツを揃えることになります。BTOメーカーとは、購入時にパソコンパーツの入れ替えを指定できるメーカーのことで、DELLやHP、マウスコンピュータ、Appleなどがあります。パソコンパーツショップでも同様のシステムを備えたショップは多く、PCワンズやドスパラなどがあります。

どちらでも良いとは思いますが、価格を抑えたいならBTOメーカーの方が良いでしょう。大量に販売しているので、薄利多売で少し安くすみます。また、ケースが良く出来ていて、後々自分でいじりやすいのもポイントです。

一方でBTOメーカーは、入れ替えたいパーツの値段が、Amazonなどで買うより高めです。ですからBTOメーカーで基礎的なパソコンを買っておき、入れ替えたいパーツはAmazonやヨドバシで注文して自分で組み込むという手もあります。

故障についてはまた次の話で触れますが、故障した時、自分でパーツを入れ替えて修理できるというのは重要なスキルです。ですので、ここはひとつ修理の時に備えて、練習のつもりでBTOでは基礎的なパソコンにしておいて、自分で別に買ったパーツを入れ替えるというのをおすすめします。(※それぞれのパーツには入れ替え難易度があります。もう少し下の方で説明しますので、ここで注文ボタンをクリックする前に、もうちょっと読んでみてください。)

デスクトップ型か、ノート型か、タブレットPCか?10

パソコンは、大まかに分けて「デスクトップ型」「ノート型」「タブレットPC」の三種類があります。夫々一長一短ですが、むしろ「用途に応じて使い分ける」位のつもりが良いでしょう。

デスクトップ型
メリット:コスパが良い・自分で改造修理しやすい
デメリット:でかい・持ち運べない・ディスプレイやキーボード、マイクなどが別途必要

ノート型
メリット:どこでも作業できるし、打ち合わせの時などに便利・ディスプレイやカメラ等ひとしきり付いている
デメリット:自分で改造修理しにくい・姿勢が限定されるので疲れやすい・お値段がちょっと高い

タブレットPC
メリット:どこでも作業できる・アナログで絵を描くのに近い感覚で描ける・周辺機器がほぼいらない
デメリット:お値段が高い。・自分で改造修理はほぼ不可能

特に、3つの価格について見てみます。11

ノート型やタブレットPCは、小さなスペースの中に巧みに部品を詰め込んであるので、どうしても「良い牛肉」を使う必要があります。ですので同じ価格なら、それぞれちょっと性能が悪くなります。特にタブレットPCは、そのペンの機能が難しい所です。事実上業界標準となっているWACOMというスタイラスペンメーカーがありますが、このWACOM製のスタイラスペンを搭載している機種は数が限られ、中でも満足行くスペックを持っている物は非常に高価です。
というわけで、ここではデスクトップ型をお勧めします。
ですが、サブとして、予備用としてなら、デスクトップ型ではなく、ノート型、特にタブレット型をお勧めします。出かけるときに持ち歩いて、サッと絵がかけるのはデスクトップではありえない利点です。

カスタム元にするパソコンの想定されている用途は?

一口にデスクトップ型と言っても、おおまかに事務用・ゲーム用・ガチクリエイター用の三種類があります。このうちどれをベースにいじるべきか?という問題があります。概ね「ソコソコ高スペックな事務用をさらに高スペックにカスタムする」と「基礎的なゲーム用のパーツを上げたり下げたりする」がオススメです。12

ガチクリエイター用のパソコンは、もはやパソコンとは呼ばず、ワークステーションと呼びます。AppleならMacPro。まさにプロがワークするためのマシンということですね。この性能で文句があったらそれはワークステーションではなく使う人の腕の問題というくらい素晴らしい性能ですが、とても高いので、いつかたっぷり稼いだ時の夢ということにしておきましょう。

パーツの入れ替え難易度について

それぞれカスタム・交換修理するパーツには、交換する難易度があります。自分でいじるのが面倒くさい、パソコンの中を開けて数万円もするパーツを触るのは怖いという人は、難易度を見て、簡単なパーツの入れ替えだけに留めるというのも選択肢です。13

結局どのパーツの入れ替えも「ケース次第」ではあるのですが、だいたいこのような難易度になっています。特にHDDは故障しやすいので、SSD/HDDは入れ替えやすいようにできています。とりあえずここだけ自分で変えてみるというのも良いでしょう。

Windowsか、Macか?

さて・・・そろそろこの問題にも触れなければなりません・・・。
これは揉めるんですよねえ。なるべく触れたくないのですが・・・私はWindowsとMac、両方使ってるので、なるべく公平にちょっとそれぞれの違いについて説明してみます。14

まず単純に性能と価格を比較してみましょう。なんとなくMacは高いという気がしますが、概ねその通りです。15

しかしこれにはちょっと裏があります。
Macはスペックに出にくいところで、チョコチョコと良いパーツをつかっています。例えばiMacだったらディスプレイがセットになってるわけですが、このディスプレイがなかなか優秀で、単品で買ったら結構値の張るスペックのものを搭載しています。他にも放熱が少ない部品を使うので音が静かとか、スピーカーが妙に良い、とか色々あります。一方でWindowsの場合は選べる製品が多いので、重要視しない部分のコストを下げるという選択がある、ということなのです。もしMacと同じ品質であらゆるパーツを選ぶと、このようになります。16

Macの良しとする基準と、自分の求める基準が合致すれば、むしろMacの方が少し安くつきます。

この他にも、さまざまなところで違いが見られます。例えばMacは、「クリエイターはパソコンに詳しい必要はない、自分の専門分野に詳しくあれば良い」というふうに作られています。これは様々な部分で、買ってきてそのままで何となく使いやすいというふうに影響してきます。ただ逆に言いうと、もし故障した時、自分で修理するのは難しいということでもあります。Macは、故障に備えて予備にもう一台持っておくか、壊れたらすぐに買いにくというのが解決策です。ただ、別のMacさえあれば、環境の回復はケーブル一本を繋いで、数十分待つだけです。

まま、違いは他にもいっぱいあるのですが、個人的には「周りにいる人が、WindowsとMac、どっちを使っているか?」で決めるのが良いと思います。
大体一般用途やマンガ・イラストの世界ではWindowsが多く、印刷やデザイン・エンジニアの人はMacが多いようです。使ってる人が多ければ、困ったときに訪ねやすいというのは大きなポイントです。とりあえず、周囲の人にそれとなく聞いてみましょう。(すっごい論争になったりするので、「それとなく」が大切ですよ。)

さて、次はいつか必ずやってくる、パソコンが壊れた時に備えるというお話です。

→3,いつかかならず訪れる故障に備える

これから絵の仕事をする人のための快適パソコン選び

これからパソコンを使って絵の仕事をする、あるいは始めた。だけどパソコンの性能があまり良くない、気持よく絵がかけない…
じゃあパソコンを買い換えよう!そういう時に、どういうパソコンを買ったら良いでしょうか?
1高価なパソコンは、もちろんその値段に見合った性能を発揮してくれます。ですが、仕事を始めたばかりだったりすると、あまり金銭的余裕もなかったりしますよね。そこで、なるべく財布に優しく、それでいてお絵かきするには十分な性能を持ったパソコンの買い方を説明しましょう。

内容はザックリ三点に分かれています。
1,「快適」とはどういうことか?(このページです)
2,快適に絵がかけるパソコン「絵師カスタム」を作る
3,いつかかならず訪れる故障に備える
必要に応じて読み飛ばしてください。

プロ用パソコンに必要な快適さ2

プロ用パソコンという訳でもないのですけど、良い絵を描きたいならどうしてもこの程度の性能は必要だ、というラインが有ります。
そこでここではうちでよく使うソフト「ComicStudio」「ClipStuido」「Photoshop」を使うという前提で性能を見積もりました。3Dを使ったり、動画編集をしたりということもあるのですが、これはちょっと高い性能が欲しくなるので、まずは2Dのお絵かき用パソコンで考えます。

良い絵を描こうとすると、どうしても「資料を見ながら描く」必要が出てきます。一つの絵に対して複数の資料を見るのもよくあることです。しかし、資料と制作のウィンドウをクルクル切り替えながら描いていると、だんだん資料を見るのが面倒になり、やがて不正確でどこか違和感のある絵が出来上がります。これを避けるためには、ディスプレイを最低でも2台接続し、資料を表示するビューアーやブラウザを開きっぱなしにしておくのが良いでしょう。
また、絵描き仲間との情報交換は成長の大きなチャンスです。描きながらSkypeやHangoutの画面共有機能を使って制作風景を見せ合うのは、相手の技術を盗む良い機会。お互いに成長の速さが倍増します。もちろん作業のお供にBGMやBGVも大事大事。無いと死んでしまいます。
これだけのソフトが同時に起動していても、絵を描くブラシが重くならないことが必要です。3

ソフトはそれぞれ重さに差があります。もし絵を描いていてパソコンが重たいと思ったら、下のグラフを目安に、「まー無くてもなんとかなるかな」というソフトを終了してみましょう。4

パソコンの値段と性能は一定で伸びない5

実は、パソコンの性能は、値段が2倍なら性能も2倍というわけではありません。パソコンの部品は牛肉と同じ。同じ製造ラインでも、良い部品が取れたり、悪い部品が取れたりします。当然よい部品は数が少ないので、プレミア価格がつきます。というわけで、超高性能パソコンと高性能パソコンは、性能差が10%程度でも、価格に2倍の開きがあったりします。

一方で、パソコンは消耗品です。「何もしていないのに壊れた」とは初心者が経験者に泣きつく時の常套句だったりしますが、実際に「何もしていないのに壊れた」は発生します(ただまあ大体の場合悪いのはあなたです)。壊れなくても、だんだん調子は悪くなる。だいたい3年、遅くとも5年で買い換える必要が出てきます。さらにパソコンに慣れてくれば、自分の使いやすいように設定を加えるようになります。自分で設定を加えなかったとしても、近頃のソフトは頻繁にバージョンアップされます。バージョンアップは概ね機能が拡張され、その代わりに少し重たいソフトになります。こうして徐々に快適なパソコンに要求される性能は上がっていくことになります。

ここで、先ほどのパソコン性能と価格の比を思い出してみましょう。2倍の価格差があっても10%しか性能が伸びないなら、そこは10%分の性能を妥協して、パソコンを買う頻度を二倍にした方が、快適でいられる状態を維持できます。6

つまり、「お金を掛けたくないからなるべく安く抑える」のは、「その分次のパソコンを買うまでの期間を短縮する」という意味でも理にかなっています。

絵を描くためのパソコン、絵師カスタム

さて、2つ前のグラフを見ると、快適さを持ったパソコンは18万円以上だ、ということになってますね。まあ大体の目安なので、ガッチリ18万というわけじゃないのですが、なんとなくそんな気がします。でも18万といえばなかなかの大金。そこでもう少し価格を抑えて、でも絵を描く分には18万円以上の性能をもったパソコン「絵師カスタム」を考えます。7

パソコンは、幾つかのパーツで出来ています。そのうち快適に絵を描くのに強く影響するパーツだけ高性能な物に入れ替えて、絵を描く分には快適、というパソコンを作る、というのが絵師カスタムの趣旨です。でもここまでの話がずいぶん長くなっちゃったので、実際にどういうパーツが関連しているかは、次の話で。

→絵師カスタムを作る

となとな1の補足

科学の世界は知っても知っても、”実は、本当は”というような話が潜んでいます。

例えば筆者が最初に出会った”実は、本当は”は、電流と電子の話です。小学校の時「電流はプラスからマイナスに流れる」と教わりました。その時教材で使う電池の+側はポコっと出てて、なるほどイメージし易いです。ところが、少し大人になると、「電流の正体は電子の流れで、それはマイナスからプラスに移動している」と教わります。
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まま、この辺りには色々と壮大な大人の事情があったようですが、今回の”隣のとなりのサイエンス”第一話にも、大人の事情でちょっと嘘をついた描写があります。それは3ページの1コマ目。水の窓軟X線顕微鏡のポンチ絵が登場します。レーザーといえばこう、プラズマといえばこうという安直な描写がされていますが”実は、本当は”、だいぶ違います。

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フィクションの世界、特にSFでは必ずと言っていい程登場するレーザー、だいたいこんな描写が多いですよね。絵を描くにあたって、光は空気に次いで表現の難しいモチーフで、それをこうすればレーザーに見えると発明した先人の想像力には感服します。…ただ、それが科学的に正しいかというと、少し別の問題だったりします。

本当のレーザーがどういうものか、ちゃんとした説明はWikipediaあたりに丸投げして、ここでは見た目だけに絞って説明しましょう。

”実は、本当は”レーザーはガウス分布です。ガウス分布というのは、中心が濃く、周辺に行くに従って薄くなる分布のことで、図示するとこんな感じ。ボヤッとした線です。
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これで少し正確な絵になりました。でも、これでもまだ”実は、本当は”が存在します。実はこの研究では、パルスレーザーというのを使います。パルスというのは、ごく短い時間だけ発光するレーザーです。レーザーは光だから、言葉で表現するなら「一瞬の瞬き」という感じでしょうか。

特にこの研究では、この瞬きの短さというのがとても重要です。短くて濃いレーザーで作ったプラズマの方が、強くてきれいなX線を出します。というわけで、このレーザーの短さ、なんと3cmほど。
もし時間を止めて飛んでるパルスレーザーを横から見ることができたら、こんな感じです。
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これでだいぶ正確なレーザーになってきました。でも、これでもまだまだ、”実は、本当は”が存在します。実はこのレーザー、波長は1064nmです。人間の目で見ることができる波長、つまり可視光はおおよそ380nm〜800nmほど。つまりこのレーザー、実は目に見えません。
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というわけで、あのひとコマにも色々と大人の事情があったわけです…

さて、こうしてマンガ内で端折った”本当ところ”を、こちらのコラムで補足してみました。

でも、このコラムの説明でも端折った部分があって、その裏に隠れた”でも、本当は”があります。
もちろん筆者の理解を超えたところに潜む”でも、本当は”もたくさんあるし、その先には、人類が未だ到達していいない”でも、本当は”もあります。

そここそが正に最先端で、世界で一番面白い”でも、本当は”だと思います。

 

 

コラム マンガの苦手な事

 大学研究室の研究をマンガで紹介する企画”隣のとなりのサイエンス”、おかげさまで好評を頂いてます。ありがとうございます。
となとなさむね

”隣のとなりのサイエンス”というタイトルは、パソコンや携帯のような私達の日常にあふれる科学の、更にその元となる科学、私達の日常に間接的に関わってくる科学の面白さを、多くの人に知ってほしいと思って名づけました。

”隣のとなりのサイエンス”はこれから連載していく予定です。うちの研究をネタにしてよ!というご依頼も大歓迎です。ぜひぜひご連絡ください。

そういう訳で、ここはひとつ研究をマンガで紹介するメリットを大々的に宣伝して一儲けしたい…のですが、すあなコラムの第一回、今回はむしろ、科学をマンガで紹介する際の弱点についてお話ししようと思います。

実は、マンガは何かを解説するのがとても苦手です。

いやいや…これじゃ宣伝にならないのですけど、少々お待ちください。順をおって説明しましょう。

マンガに含まれる情報を、ざっくりと読者の頭脳へ送られる知識と、心へ送られる感動の2つに分けるとします。
情報と感動

絵の伝える雰囲気、「なんだか楽しそう」というような情報は、マンガから読者の心へ送られる情報です。第一話を読んで、「この研究なんだか面白そう」と思って頂けたなら、マンガに盛り込んだ「これ面白いよね!」という情報が、あなたの心へうまく送信できたということです。しめしめ。

一方、マンガから読者の頭脳へと送られる情報もあります。これは主に文字による情報で、”隣のとなりのサイエンス”第一話に関して言えば、水の窓顕微鏡の仕組みや、軟X線の波長に関する解説部分にあたります。”隣のとなりのサイエンス”は研究を紹介するマンガですから、この部分はとても重要です。

さて、ではこの読者の意識へと送信される情報ですが、どのくらいの量が見込めるでしょうか。

よくプレゼン1分あたりスライド1枚と言われますが、このプレゼンを更にマンガにする場合を考えてみます。

マンガは、登場人物の会話によって話が進められます。絵と文字のバランス等を考慮すると、かなり台詞の多いマンガでも1コマあたり二言か三言が限界です。そして1コマ1コマを並べていき、5〜6コマくらいで1ページとなります。
こうして、例えば10分程のプレゼンをマンガにすると、だいたい30ページになります。
くらべ意外と少ないことにびっくりしたのではないでしょうか。もしマンガを読んだ感想が「なんだか中身が無いなあ」だったとしたら、それはその通り、マンガはそういうメディアなのです。

もちろんページ数を増やせば、情報量を増やすことは出来ます。しかし話が長くなれば、途中で脱落する読者が増えてしまう。せっかく描いたマンガも読んでもらえなければ意味が無いので、”隣のとなりのサイエンス”制作にあたっては、かなりたくさんの情報を切り捨てました。こうして、”隣のとなりのサイエンス”の肝心な研究の紹介という部分は、とても薄くなってしまいます。

さて、ここで冒頭の疑問に戻ります。はたして科学をマンガで紹介することに意味は無いのでしょうか?

インターネットの普及と検索サイトのお陰で、誰もが何でも簡単に調べられる時代になりました。例えば水の窓軟X線生体顕微鏡も、それっぽいキーワードで検索すれば情報はたくさん降ってきます。光の波長についての小学生でもわかる丁寧な解説から、水の窓軟X線生体顕微鏡にフォーカスを当てた専門的な解説もあり、検索した人は、それぞれ自分の必要に合わせた知識を仕入れる事ができます。

しかし一方で、インターネット上にある情報は、自分で能動的に調べようと思わない限り出会うことはありません。

そこで重要になってくるのが、「何を調べようと思うか」という動機の部分だと思います。
動機とはつまり、興味です。読者が興味を持ってくれさえすれば、あとは自分で調べてくれるはず。そこで”隣のとなりのサイエンス”は、研究を解説することより、研究に興味を持ってもらうという方に大きく舵を切ることにしました。

マンガは解説は苦手ですが、読者の心へ送る情報、つまり面白さを伝える部分では、強みを発揮するメディアです。
ちゃーと
理科に興味を持つ人が増えれば、グルーっと回って科学的成果も増えるはずです。そしていつか”となとな”を読んだ人の中からノーベル賞を貰う人が出ちゃったりしたら嬉しいですね。握手してもらおう。夢は大きく。

これからも”となとな”をよろしくお願いいたします。